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 【2008年4月】
 ●クローバーフィールド/HAKAISHA
 ●船、山にのぼる
 ●つぐない
 【4月続き
 ●フィクサー
 ●パラノイド・パーク
 ●大いなる陰謀
 ●ラフマニノフ ある愛の調べ
 
4月続きその2
 ●ブラックサイト
 ●譜めくりの女
 
4月続きその3
 ●ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
 ●さよなら。いつかわかること
 ●NEXT -ネクスト-
 ●紀元前1万年

●『フィクサー』★★★
 (2007・米・2時間00分)4月12日公開

監督:トニー・ギルロイ
出演:ジョージ・クルーニー
   トム・ウィルキンソン
   ティルダ・スウィントン


 原題の“MICHAEL CLAYTON”(マイケル・クレイトン)はG・クル演じる主人公の名前で、そのまんまのタイトル。
 しかし、邦題の『フィクサー』は、かつてジョン・フランケンハイマーの同名作品(“THE FIXER”1968/原作:バーナード・マラムッド、脚本:ダルトン・トラムボ、主演:アラン・ベイツ=オスカー主演男優賞ノミネート)があって、帝政ロシア末期の政治的陰謀を描いた捨てがたい佳作(!)だったので、ここはWって欲しくなかったところ。
 それはともかく、本作は、『ボーン』シリーズ3部作の脚本で高評価されたトニー・ギルロイが長編初監督した企業サスペンス。
 このところ製薬会社の巨悪を扱った話題作が多いが、ここでは巨大農薬会社に被害を受けた人たちの集団訴訟を題材にしている。
 触れ込みは「弁護士事務所に所属しながら“もみ消し屋=フィクサー”として生きる男の苦悩を緊迫感溢れるタッチで描く」というものだが、G・クルも悪くないとはいえ、ここでの見
どころは、敵対する企業弁護士を演じたティルダ・スウィントン(本作でアカデミー助演女優賞を受賞)だろう。
 このところ、『ナルニア』の白い魔女などメジャーでの活躍が目覚しく、「デレク・ジャーマンのミューズ」などとマニアックに言われていた頃からは隔世の感がある。
 役柄は辣腕の女弁護士だが、モンスター的に誇張することなく至極リアルに描かれており、プレゼンやTV出演の前にホテルの部屋でひとり鏡に向かってスピーチを繰り返し練習するあたり、「デキるキャリア・ウーマン」ほど実際にはこんなことをしてるんだろうな、と思わせて秀逸だし、また、G・クルのフィクサーとの駆け引きなど対決の詳細がよく解って、充分に見せてくれる。
 更に、ラスト・シーンで遂にG・クルの罠に嵌って気絶してしまうところなど、弱さというより、逆に事態の大きさを心底から感じさせ、ここは演出も会心の出来。
 シドニー・ポラックが製作と出演を兼ね、いい味をみせている。

●『パラノイド・パーク』★★★
 (2007・米・1時間25分)4月12日公開

 監督:ガス・ヴァン・サント
 出演:ゲイブ・ネヴァンス
    テイラー・モンセン


 ハリウッドやNYから遠く離れて、オレゴン州ポートランドという北西のはずれで製作を続けるガス・ヴァン・サントが、カンヌの頂点を極めた『エレファント』(2003)同様、地元の少年たちを公募でオーディションして配役した、ローカルな味わい深い佳作。
 巻頭、まず今時珍しいスタンダード・サイズ(4:3)に驚く。きょうび、素人のヴィデオでもハイヴィジョンの16:9が普通になって来ているし、やがてDVD化された時は、薄型TVでは左右が黒味になってしまうだろうに、それでもこのサイズに回帰したのには、ある種の決然とした意志を感じさせる。
(ただ、実際DVDが発売になってからこれを観る人の多くは、左右に引き伸ばされた16:9サイズのまま無頓着に観るのだろうが…)
 主人公はスケートボードに夢中の16歳の少年で、名前が何故か『エレファント』の少年と同じアレックス。監督はこの名によほどこだわりがあるのだろうか。
 演じるゲイブ・ネヴァンスは、当然、映画初出演だが、なかなかの美少年でナイーヴな魅力の逸材。撮影当時16歳にしては186cmと長身だが、ただ、まわりのキャスティングや画作りで、むしろ小柄かと思わせるくらい高身長を意識させない。
 タイトルは、作中でスケートボーダーが集まる公園“パラノイド・パーク”のことで、これはポートランドに実在する公園“バーンサイド・スケートパーク”をモデルにしており、撮影も実際にそこで行われている。ただ、普通は公園に“パラノイド”(=偏執狂的)などとは名付けないだろうから、あるいは
俗称、通称の類いという設定なのかもしれない。
 アレックス少年はその公園で不良グループと出会い、走っている貨車に飛び乗る危険な遊びをしているうちに警備員に見つかり、間違って事故死させてしまう。
 罪の意識を感じながらも逃走し、学校へ聴取に来た刑事にはシラを切り、誰かに話して楽になりたいと思いながらも、今まで通りの日常生活を続けて行く…。
 原作はポートランドを舞台にした短編小説で、サントはこれを「ヤングアダルト版『罪と罰』」と呼んでいるそうだが、計画殺人と未必の事故とではあまりに違うとは言え、根源的な贖罪を求める点は両者に通底している、ということだろうか。

●『大いなる陰謀』★★★
 
(2007・米・1時間32分)4月18日公開

 監督・出演:ロバート・レッドフォード
 出演:トム・クルーズ
    メリル・ストリープ


 原題の“LIONS for LAMBS”は、そのまま直訳すれば「子羊たちのためのライオンたち」で、日本人にはあまり馴染みの無いイディオムだが、これは「前線の兵士たちはライオンのように勇敢でも、指揮をとる連中は子羊のように臆病だ」といった意味であり、第1次大戦の「ソンムの会戦」でイギリス軍に対して言われた言葉だという。
 しかし、この映画では、そういう図式に今のアメリカの現実を当て嵌めようとしても、そんなに単純には行かない、ということを教えてくれる。
 要は、アフガン侵攻やイラク戦争で犠牲になった兵士たちへのレクイエムと、彼らを戦場に駆り立てている政治家への批判なのだが、しかし、その政治家たちというのが実際には、ネオコンに代表される主戦派のように、高学歴の明晰な頭脳を持ち、自信満々、自分たちの戦略に絶対の確信を持っているように見える(少なくとも、そう振舞っている)から、原題のような「臆病な子羊」とは見えないところが現実のムズかしさという
ものだろう。
 ここでその種の政治家に扮しているのがトム・クルーズで、若い頃に演じた『タップス』の過激なハネ上がり坊やがそのまま大きくなってエリート化したような、野心的な上院議員を十全に演じている。
 この議員は士官学校を優秀な成績で卒業していて、「制服組」としてもエリートであり、停滞するアフガニスタン情勢を打開するために思い切った作戦を立案する。
 そして、その成功のためにも世論の支持を取り付けようと、作戦開始直前にメリル・ストリープ演じるヴェテラン女性ジャーナリストを呼んでリークし、有利な報道をさせようとするが、彼女のほうは議員の真意を忖度しながら、作戦への疑問をぶつけて行く…。
 ワシントンの執務室で交わされるこのディベートが、かなり本格的であり、虚々実々の駆け引きも面白く、なかなかに堪能させてくれる。
 一方その頃、ロバート・レッドフォード演じる大学教授は、かつての教え子ふたりがそのアフガン高地作戦に参加しているとは夢にも知らず、このところ学問にやる気を失くしている男子学生を呼んで、そのふたりの教え子を例に出し、彼らが「参加すること」の重要性を研究発表して軍に志願して行ったこと
を教える。
 それは別に従軍を推奨しているわけではなく、ヴェトナム戦争の経験がある教授はむしろ反戦の側であり、ここでは無関心でいることの罪深さを諭すための例だったのだが、男子学生も次第に真顔で聞くようになって行く…。
 で、この2箇所と並行して、アフガンでは高地占拠作戦が着々と進行しており、教授の教え子ふたりは壮烈な戦闘に巻き込まれ、窮地に陥って行く…。
 同時並行で語られるこの3っつのシークエンスは、最後まで交わることは無いが、エンディングに近く、メリル・ストリープの女性キャスターがタクシーの窓からアーリントン墓地に延々と連なる墓標を見て涙を流すシーンが、この映画の眼目だろう。
 教授が呼びつけた男子学生のごとく、大衆は戦地で死んで行く「ライオンたち」のことを忘れがちなのだ。

●『ラフマニノフ ある愛の調べ』★★
 
(2007・ロシア・1時間36分)4月19日公開

 監督:パーヴェル・ルンギン
 出演:エフゲニー・ツィガノフ
    ビクトリア・トルストガノヴァ


 映画に使われたクラシックではピアノ協奏曲第2番があまりに有名な、ラフマニノフの伝記映画。
 昔から人気の作曲家だけに観客動員は連日好調で、ラフマニノフ役のツィガノフは風貌も本人そっくりのまさに適役だし、撮影は落ち着いた色彩の上に幻想味があるし、と、いい条件は揃っているのに、内容は大きく期待外れの落胆作。
 巻末に、これは忠実な伝記ではなく「芸術的創作であり、史実と違うところが有る」と断ってはいるが、しかし、この種の実録ものに不可欠のリアリティに問題があっては致命的だ。
 言語の扱いが、それを象徴しているように思われる。
 冒頭のNY公演で、会場にソ連大使がいるのに抗議して退席する時、ラフマニノフは聴衆に「私の親しい人々を何人も殺した男の前では演奏できない」と語りかけるが、その言葉はロシア語だ。その後、プロモーション役のスタインウェイが「ソ連大使を追い出せ」と叫んで聴衆を煽るのだが、その言葉も何故かロシア語。それでも満場の聴衆はソ連大使に大ブーイングを浴びせかけ、紙つぶてを投げつける。当時も今も、NYのカーネギー・ホールの客席にロシア語の解る聴衆が何人いるという
のか?
 ハリウッドの撮影現場では、記者たちが押しかけて来てラフマニノフに質問を浴びせるが、それさえも総てロシア語。アメリカのマスコミに、通訳無しでいきなりロシア語を使える記者がそんなにいるのか?
 こういうことを微細な問題と言うなかれで、そこらの違和感を無視して作ってしまうセンスが、もう命とりと言わざるを得ない。
 これらのシーンは当然ながら英語にして、国内的にはロシア語の字幕スーパーでも付ければ済むところではないか。
 勿論、映画における使用言語の問題は今に始まったことではなく、特にハリウッド映画では、クレオパトラもモーゼもミケランジェロもキリストも、ドイツ将校もフランスの闘士も、みんな英語を話していたが、歴史もので言語にこだわっていては映画にならないからそこらは許容できるとしても、最近の『戦場のピアニスト』あたりではポーランド語が全部英語になっていて辟易させられたし、邦画でも、例えば篠田正浩の『沈黙』(遠藤周作:原作)では、当然ポルトガル語であるべき部分が全部英語になっていたりと、挙げれば枚挙に暇ないところ。
 しかし、ここでは、後半生をアメリカで送ったラフマニノフといえども内輪で会話する限りは英語でなくても一向に構わないけれども、道端のアメリカ人といきなりロシア語で話すのは、どう見ても不自然ではないか。

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