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 【2006年9月】
 ●ユナイテッド93
 ●スーパーマン リターンズ
 ●狩人と犬 最後の旅
 ●マッチポイント

●ユナイテッド93 ★★★半
 
(2006・米・1時間51分)

 監督:ポール・グリーングラス
 出演:J.J.ジョンソン
    ベン・スライニー本人


 2001年9月11日のいわゆる同時多発テロルでは、周知の通り4機の旅客機がハイジャックされたが、これはそのうち目標に到達しなかった1機、途中でペンシルヴェニアの農場に墜落したユナイテッド93便に焦点を合わせ、その経緯を驚くほど忠実に再現したもの。
 ポール・グリーングラスはドキュメンタリー出身で、本邦未公開の『ブラディ・サンデー』(2002)が絶賛を博してメジャーに進出し、『ボーン・スプレマシー』(2004)に起用され上々の手腕を見せたが、実際これはアクション映画として見事な傑作で、本欄でも「もうちょっとで★みっつにしたいほど」とか、書いたものだった。
 ここでもその実力は充分に発揮され、テロリストがホテルを出て93便に乗り込む冒頭など、ガチガチに緊張している様子がよく伝わって、彼等もハイジャックは未経験であり、何より死ぬのもこれが初めてなのだと思い至らせる。
 乗客・乗員には殆ど無名の俳優をキャスティングしてリアリティを増し、更に、管制官や軍人の中には実際の本人が自分の役で出演していて、この上ない説得力をもたらしている。
 また、この映画の価値は、機内の様子だけでなく地上の管制の動きをも克明に再現していることで、とりわけ空軍の防空指令センター内部など、これまで全く知らなかった所でどんなふうに情報を集め、命令を出しているか、実に興味津々だった。
 これから公開のオリヴァー・ストーン『ワールド・トレード・センター』(そのものズバリのタイトル!)とは、同じ9・11実録ものでもだいぶ性格が違いそうだが、比較が楽しみだ。

●スーパーマン リターンズ ★★半
 (2006・米・2時間34分)

 監督:ブライアン・シンガー
 出演:ブランドン・ラウス
    ケイト・ボスワース 


 劇場版の再スタートにあたっては、主役探しや監督の再三の交代など、色々と紆余曲折あり、演出は結局『X−MEN』シリーズを2本作ってきたブライアン・シンガーが、3作目の『ファイナル・ディシジョン』を諦めてまでスライドして来て、つまり、マーヴェル・コミックスからライヴァルのDCコミックスへと乗り換えたわけだ(笑)。
 新人のラウスくんは長身のイケメンで、劇場版2代目としてはまずまずの合格だが、ただ、いまひとつオーラというか、「華」に不足気味であり、共演者たちと並んで撮ったスナップ写真など見るとごく普通の青年ふう(笑)で、このシリーズの今後は彼のスター性を含めた成長如何に左右されそう。
 新ロイス・レーンのケイト・ボスワースは、女性記者らしいキャリアっぽさには不足するが、とってもキュートだから許〜す(笑)。
 敵役には曲者ケヴィン・スペイシーが登場し、なかなかにアクの強い凄味でさも面白そうに演じていて、充分に楽しませてくれる。
 演出上の欠点としては、ちょっと思い入れが強すぎたのか、この種のポップコーン映画で2時間半は長すぎること。
 また、スーパーマンの唯一の弱点である「クリプトナイト」という緑色に光る鉱物の扱いも、近づいただけで超能力が失われて普通の人間レヴェルになってしまうかと思えば、それが含まれた巨大な岩塊を持ち上げても衰えずに宇宙まで運んで捨ててしまったりと、どうも基準がよく見えず、ご都合的に過ぎる印象で、そのあたりをちゃんと数量化して整理していればもっと説得力が増し、クライマックスも盛り上がるのだが…。
 ところで、これから来る『ハリウッドランド』という作品は、'50年代のTV版「スーパーマン」(30分シリーズ)で主役を務めたジョージ・リーヴスの自殺(1959)の謎を追ったミステリーで、こっちもかなり注目だ。

●狩人と犬 最後の旅 ★★★
 (2004・仏・加・独・伊・1時間34分)

 監督・脚本:ニコラス・ヴァニエ
 出演:ノーマン・ウィンター
    メイ・ルー
 


 カナディアン・ロッキーを本拠にして、実際に狩人として生きるノーマン・ウィンターの生活ぶりを、本人が出演して克明に再現したもので、純然たるドキュメンタリーとは言えないが、映っているのはすべてが本物。
 タイトルや宣伝は犬をフィーチュアして、子供や家族連れ観客を意識しており、劇場パンフも小型で厚紙表紙の絵本調だが、内容はそれと裏腹に至ってシリアスで、狩人の生活を淡々と追うことに虚飾なく、地味と言いたいほど。
 過酷な自然と闘いながら、犬橇で長距離を移動してトラップ(罠)を仕掛け、獲物の毛皮を売って現金にもするが、多くは自給自足の生活で、丸太小屋なども同居するネイティヴの女性とふたりだけで作ってしまう。
 監督のニコラス・ヴァニエは、自分でも犬橇で冒険旅行をしていて最後の狩人=ノーマンに出会い、その姿を記録しなければと思ったのが製作の動機だそうな。
 こういう−50°Cというような見るからに寒そうな映画は、真夏に観るのが最適(笑)。

●マッチポイント ★★半
 (2005・英・2時間04分)

 監督:ウッディ・アレン
 出演:ジョナサン・リース・メイヤーズ
    スカーレット・ヨハンソン
 


 ウッディ・アレンが長年本拠にしていたNYを離れ、ロンドンを舞台にした完全犯罪もので、元テニス・プレイヤーが野心と成り行きでイギリス上流階級にのし上がって行くという話しはヒッチコックなど想起させ、なかなかに面白い。
 展開としては、妻の父親に気に入られて企業でも出世するあたりがちょっと上手く行き過ぎる感じだが、結末に至って、この種のクライム映画の定石を巧みにはずして肩透かしを食わせるあたり、さすがにユニークだ。
 ただ、スカーレット・ヨハンソンが誘惑的な美女として申し分無く登場するのはいいが、後半に入ってから描き込み不足で、一本調子のつまらぬ強欲女になってしまったのがもの足らず、ここらにウッディ・アレンの監督としての甘さが露呈したと言えようか。
 尚お、アレンは演出のみで顔は見せていないから、あのメガネ面は敬遠したいという向きにも安心して薦められる(笑)。








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