トップホームウェブマガジン高城健一の映画MEMO>2008.8
                   年間ベスト2004200520082009
                   2008年1月2月3月4月5月|6月|7月8月|9月|10月|11月|12月|
                   2006年1月2月3月4月5月6月7月8月9月|10月|11月|12月|
                   2005年1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月



  【2008年8月
 ●この自由な世界で
 ●ハンコック
 ●ダークナイト
 ●アクロス・ザ・ユニバース
 ●TOKYO!
 ●カンフー・ダンク!
  
8月続き
 ●インクレディブル・ハルク
 ●スカイ・クロラ The Sky Crawlers
 ●闇の子供たち
 ●画家と庭師とカンパーニュ
 ●12人の怒れる男
 ● レス・ポールの伝説
 ●20世紀少年
 ● インビジブル・ターゲット

●『この自由な世界で』★★★半
 (2007・英伊独スペイン・1時間36分)8月16日公開

監督:ケン・ローチ
出演:カーストン・ウェアリング
   ジュリエット・エリス


 ケン・ローチの最新作は、今のところ2008年度公開の洋画ベスト3には入ろうかと思える秀作だ。
 ヨーロッパにおける雇用状況――主に東欧からの不法就労に焦点を合わせ、いつもながら最下層に生きる人々の暮らしを確かな目で見据えている。
 職業紹介業でバリバリ働くキャリア・ウーマンのアンジー(カーストン・ウェアリング)は、一人息子を両親に預けて頑張るシングル・マザー。
 が、ある日突然、理由も無く解雇されてしまい、女友達と共同経営で人材派遣会社を立ち上げるのだが、資金繰りに苦労しているうちに不法滞在者の就労に手を染め、捕まれば懲役という危ない橋を渡るようになる…。
 きょうび貴重とも言える社会主義者のローチが、タイトルの『この自由な世界で…』に込めた意味は、自由主義世界の“自由”とは「何をしてもいい」のが基本だけに、そこには法を守ること、道徳に則ることが、自由であればあるほど必要だ、という当たり前の大原則のように見えるが、それ以上に、そういう「自由世界」で本当にひとは幸福になれるのか、という根本的な問題提議でもある。
 そして、結果的に資本主義の矛盾を浮き彫りにし、観客はしばし沈思黙考を強いられることになる。
 ここには名の知れた俳優はひとりも出演していないが、ケン・ローチのコアなファンとおぼしき人々で劇場は連日満員。キャストによらず、ローチの価値をかえって明らかにする事象だ。

●『ハンコック』★★半
 (2008・米・1時間32分)8月30日公開

 監督:ピーター・バーグ
 出演:ウィル・スミス
    シャーリーズ・セロン


 これはちょっと捻った超人もので、予想以上に面白いアクション・コメディだ。
 ウィル・スミス演じるハンコックはスーパーマンと同様の不死身であり、弾丸より速く空を飛び、怪力で何でも持ち上げ、銃で撃たれても撥ね返す。
 しかし、スーパーマンのようにマントをひらめかせて格好良く飛ぶ正義のヒーローじゃなく、酒びたりでウィスキー壜片手にふらふら飛んで道路の案内板をぶち壊したり、荒っぽい着地で舗装に穴を開けたり、せっかく悪人たちを捕まえても罵られるとキレて塔の上に車を突き刺したり、素行のワルさで全然感謝されず、子供たちからも「クズ」と軽蔑される始末で、「どこか他の街へ行ってくれ」と厄介者扱いされている。
 そこへ、ひょんなことからハンコックに命を救われたPRマンのレイ(ジェイソン・ベイトマン)が、ハンコックを見かねて、愛されるヒーローになる為のプロジェクトを開始する、というストーリー進行はまずまず。
 更に、レイの妻役でシャーリズ・セロンが今やハリウッド1とも言うべき美貌を見せてくれ、話しは快調に進むかと思いきや…。
 なんと、中盤以降、突然に意表をついた展開で驚かせて、思いもかけない方向へ物語りは突入していく。
(とにかく、これでシャーリズ・セロンのキャスティングも一段と納得がいくというものだ)
 あくまで憶測・推測の類いだが、製作にアキヴァ・ゴールズマンの名前がクレディットされているので、この一筋縄では行かないストーリー展開は、あるいはゴールズマンのアイデアか、とも思わせる。
 (尚おゴールズマンは、大企業の重役連のひとりという役で、ちらっと出演もしている)
 ただ、「予想外の展開」はいいとしても、それについての原則が少々あいまいで判然としにくく、あちこち突っ込みたくなるのが玉に瑕であり、そこらをもうちょっと整理して掘り下げてあれば、ここにはかのアンドロギュノス神話にも通ずる深い寓意が現出するところなのだが…。

追記:本作のジャパン・プレミア(8月21日)には、主演のふたりの他にゲストで横綱・朝青龍が現れ、自分がハンコックに通じる「嫌われ者のヒーロー」であることを自覚しているようなのが面白かった(笑)。

●『ダークナイト』★★★
 (2008・米・2時間32分)8月9日公開

 監督:クリストファー・ノーラン
 出演:クリスチャン・ベイル
    マイケル・ケイン

    ヒース・レジャー


 新「バットマン」シリーズの『バットマン ビギンズ』に続く第2弾。
 高評価だった前作のまま、クリストファー・ノーランがメガフォンをとっている。
 タイトルの『ダークナイト』は「闇夜」ではなく、「暗黒の騎士」の意味だが、ついそう勘違いしてしまいそうなほど、ここでの夜は深く暗い。
 DCコミックスではスーパーマンと並ぶヒーローのバットマンではあるが、元々の連載コミックやTVシリーズ、アニメ・シリーズなどは、あまり大人の観賞に耐えられるものではなかった。
 そこにティム・バートンによる長編映画シリーズがスタートし、バートン流の深夜幻想テイストを効かせて全編に暗さが増したと同時に深みも出て来て、ここら辺からハリウッドあげてのアメコミの再映画化が始まり、マーヴェル・コミックスの『X−メン』『ハルク』『ファンタスティック4』などが次々と続き、休止していたDCコミックスの『スーパーマン』も新シリーズが立ち上がった。
 このMEMOでも毎度書くことだが、DCコミックスとマーヴェル・コミックスとの大きな違いは、マーヴェルのほうが事故や事件に見舞われた普通人が突然変異を起こし、超能力を得たり変身したりするのに対し、DCのほうは生まれつき超人だったり超能力を持っていたりする、という点だろう。
 バットマンの場合も生まれつきで、特にこれといった超能力は無い代わりに大資産家という出自があり、その資金力にものを言わせてバット・カーやボディ・スーツなどの秘密兵器を駆使し、超人的な能力を発揮する。
 ただ、本作では、そういうアイテムを活躍させるアクションもたっぷり有るには有るが、むしろ人物間の信頼・裏切り・報復といった感情の揺れ幅の大きさに目が注がれていて、通俗の娯楽映画には無い人間ドラマが腹応え充分に詰め込まれている。
 だから、ここでの第1の見所はヒース・レジャー演じるジョーカーだろう。
 バートン版でジャック・ニコルソンが演じたあくまで寓意的な悪役としてのジョーカーに較べ、ここでのヒースは、三池崇史の『殺し屋1(イチ)』で浅野忠信が演じた超マゾの口裂け男をも連想させるほど、おそろしく醜悪で不気味なジョーカーだ。
 はからずもヒースは、この撮影終了直後の2008年1月22日に28歳の若さで死去し、これが遺作となってしまった。
 これまでどちらかと言うとお人好しや駄目男など善人を多く演じてきた(稀代のプレイボーイ役の『カサノヴァ』は相当に不似合いだった)彼だが、ジョーカーのメイク・アップで素顔を隠したとたん、とんでもなく突き抜けた演技を始めてしまった。
 個人的には、ヒースのありのままの生身を感じるのは、高評価の『BBM』よりもむしろ『キャンディ』の麻薬漬けのダメ男なのだが、ああいう彼が二度と観られなくなってしまったのは何とも残念であり、大きな損失だ。
 バットマンを前作に続いて演じるクリスチャン・ベールは、やはり線が細く、いまひとつ逞しさを感じないのが相変わらず気になるところ。
 ゲイリー・オールドマンが、バットマンと共闘する市警本部長を演じていて、かつての曲者ぶりとは180度反対の役だが、往年ならこれを、よくありがちな警察幹部が黒幕だったという意表外な結末の伏線と勘繰られてしまうところ、最近は『ハリ・ポタ』の囚人シリウス・ブラックという主人公をサポートする側を演じたりしているので、そういう早合点の心配も無くなったという判断なのだろう。
 実際、家族の生命まで危険に晒されながらもバットマンを裏切らない深みの有る人物を、印象的に演じている。
 ラストでは、そのオールドマンの市警本部長にバットマンについて語らせ、善と悪とのジレンマ、一種の哲学的命題にまで言及していくあたり、並みの娯楽映画を大きく超えていて、2時間32分はちょっと長く感じられるが、観終わっての余韻は深く、しばし考え込ませるものがある。

《追記》
 こういう内容にもかかわらず、全米BOXオフィスでは『スパイダーマン』を超えようかという記録的な興行成績をあげているのには驚く。アメリカの観客も、決して馬鹿にしたものではないのか(笑)。

●『アクロス・ザ・ユニバース』★★★
 (2007・米・2時間11分)8月9日公開

 監督:ジュリー・テイモア
 出演:エヴァン・レイチェル・ウッド
    ジム・スタージェス


 ビートルズのヒット曲を巧みに鏤(ちりば)めたミュージカル。
 才女ジュリー・テイモアの演出だけあって、各ナンバーの使い方が秀逸であり、ビートルズの歌詞の意味を登場人物の境遇や心境に合わせてうまく敷衍し、なるほどと膝を叩きたくなるような巧みな嵌め込み方でストーリーを構築している。
 つまり、これは通常のミュージカルとは、曲とストーリーを作る順序が正反対なわけだ。
 設定は60年代のヴェトナム戦争たけなわの頃で、反戦運動やキング牧師の暗殺などの時代の象徴が盛り込まれる。
 主人公の男女の名前がジュードとルーシーで、これはたぶん《ヘイ・ジュード》や《ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ》がこのふたりに絡めて使われるぞ、と思っていたら案の定だったが、その生かし方は予想以上に上手く非凡だった。
 他の登場人物もユニークで面白いが、とりわけジュードが間借りする部屋を貸す女歌手のセディが、ジャニス・ジョプリンふうのパンチ力満点の歌唱で盛り上げ、ビートルズの世界にまたパワフルなエネルギーを加えている。
 ラストでは、そのセディを中心とするバンドが屋上で即興的なライヴを始め、聴衆が通りを埋め尽くし、警官隊が出動して中止を勧告するのだが、これは実際にビートルズがリヴァプールのアップル・レコード屋上でやったゲリラ・ライヴを踏襲していて、ビートルズ・ファンを堪らなく嬉しがらせるようなオマージュになっている。

●『TOKYO!』★★半
 (2008・仏/日/韓・1時間50分)8月16日公開

1「インテリア・デザイン」
 監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
 出演:藤谷文子
    加瀬亮&
2「メルド」
 監督・脚本: レオス・カラックス
 出演:ドニ・ラヴァン
    ジャン=フランソワ・バルメ
3「シェイキング東京」
 監督・脚本:ポン・ジュノ
 出演:香川照之
    蒼井優


 今をときめく3人の才人が東京を舞台にしたオムニバス。
 それぞれに意匠を凝らし、面白い話しを紡ぎ出そうと競っているのはいいが、事前の期待がかなり大きかっただけに、ちと辛めの採点(★★半)になった。

 第1編の「インテリア・デザイン」は、映画監督を志す恋人(加瀬亮)と上京し、女友達の部屋にふたりで転がり込んだヒロイン(藤谷文子)が、部屋と仕事を探してあちこち東京を彷徨うファンタジー。
 見てまわるアパート物件がひどい部屋ばかりとか、車をレッカー移動され取り返しに行く保管場所とか、東京人でも普段はあまり出来ない体験が面白く、また、加瀬亮の演じる自主映画作家が自作の上映で映画館内に本当のスモークを流して観客を文字通りケムに巻くあたり、チェーホフの「かもめ」に出て来る劇中劇で作家志望の青年トレープレフがやはり煙を使うのを彷彿とさせ、飽きさせない。
 ただ、終盤、ヒロインに起きる幻想的な出来事が、それまでのリアルなトーンとはちと異質で、そこら辺のスタイルの違和感がせっかくのアイデアを相殺しているのが残念だ。

 第2編の「メルド」は、フランス語で「糞」の意味で、都心のマンホールから謎の怪人(ドニ・ラヴァン)が出現し、街中で奇行を繰り返してはまたマンホールに消えていく。マスコミも大きく取り上げて“下水道の怪人”と呼び、東京の人々は恐怖に陥る、という話し。
 とにかく、真昼の銀座の中央通りを裸足の怪人が疾走するのを正面から長回しワン・カットで撮ったゲリラ撮影が凄く、更には夜の渋谷の大歩道橋で怪人が手榴弾をばら撒くのを通行止めにして撮ったシーンなど、ちょっと日本の監督では二の足を踏みそうなことを強行している。
 後半、その怪人が捕まると、彼が話す言語は意味不明で、地球上で3人しかいないというその言語の解る人物──フランス人の弁護士(ジャン=フランソワ・バルメ)が来日し、尋問が行われ、裁判へと進むのだが、ヘンな言語→フランス語→日本語と訳される手順がもどかしいながらもケッタイで可笑しく、更にファンタジックな結末にもそれなりの寓意は読み取れるが、しかしこれだけではそんなに非凡なものとも思われない。

 第3編の「シェイキング東京」は、香川照之がいい年をして家に引きこもっている男で、ピザ宅配の少女=蒼井優に惚れてしまうという話し。
 後半、東京ぢゅうがみんな引きこもりになって通りが閑散としている、という描写が、何とも皮肉が利いていてユニークだ。
 ただ、この宅配少女が実はサイボーグなのでは…、と思わせないでもない仕掛けがあるのはいいが、実際はそういう仮託=ごっこをしてるだけとも受け取れ、どちらとも断定していない結末は、ちょっと消化不良を起こす。

 3編とも、何とか新奇なお話しを作ろうという意図が見えすぎ、映画を作るための映画になってしまっている度合いが大きく感じられるのが減点の要因だが、さて、どれもそれなりに面白い出来ではある。

●『カンフー・ダンク!』★★
 (2008・台湾/香港/中国・1時間38分)8月16日公開

 監督:チュー・イェンピン
 出演:ジェイ・チョウ
    シャーリーン・チョイ


 カンフーとバスケットボールを合体したオーバー・アクション・コメディで、カンフーとサッカーを一緒にした『少林サッカー』の明らかな亜流だが、アクション場面に色々と工夫があって、何も考えずに観る限りは、なかなか楽しめる。
 ただ、主人公の少年が人間業(わざ)を遥かに超えたスーパーボーイで、これならバスケに限らず何をやっても大記録だろうと突っ込みたくなるが、そこら辺を気にしたのか、ラストで自ら茶化して台詞で言わせてみせるあたりは、この監督、それなりの自意識の持ち主だ。
 ただ、いくら超人的と言っても、時間をフリーズさせて巻き戻し、またもう一度おなじ勝負を繰り返して今度は逆転するなんぞは、もう神の領域であって、いかにカンフーの教えが深遠なものであろうとも、これでは全く不可能は無いことになってしまい、映画の有り方として先行き自分の首を絞めることになりはしないか…、などと思うのは大きなお世話か?
 『インファナル・アフェア』シリーズでお馴染みのエリック・ツァンが主人公をスカウトする役まわりで助演し、あの愛嬌の有るマスクで嬉しそうに演じているのが楽しい。


続きを読む>>






●プライバシーポリシー

HOME出版編集・DTP自費出版古書GraphicデザインWebマガジンネットワーク会社概要携帯サイトSitemap



Copyright(C) 1992-2005 Ganshodo-shuppan All Rights Reserved.