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 【2006年3月】
 ●ミュンヘン
 ●ジャーヘッド
 ●白バラの祈り−−ゾフィー・ショル、最期の日々
 ●ナルニナ国物語 
第1章:ライオンと魔女
 ●ウォーク・ザ・ライン 君につづく道ン
 ●ホテル・ルワンダ
 ●雨の町

●ミュンヘン ★★★
 (2005・米・2時間44分)

 監督・製作:スティーヴン・スピルバーグ
 出演:エリック・バナ
    ジェフリー・ラッシュ



 1972年のミュンヘン・オリムピックで、パレスチナ・ゲリラがイスラエル選手団を人質にとった事件は、日本でも連日大きく報道され、最悪の結末には相当なショックを覚えたものだった。
 沈痛な空気の中、追悼式が行なわれ、バーンスタインの指揮するバイエルン放送響(本拠はミュンヘン)がベートーヴェンのエグモント序曲を重々しく演奏していた。
 すぐにイスラエル空軍はPLOの拠点を報復爆撃し、中止が懸念された五輪そのものは再開され、どうにか事態は沈静化したように思われたが、翌'73年の10月には第4次中東戦争が起こり、いわゆるオイル・ショックのきっかけとなる。
 オリムピックの流れでは、その後、モントリオール五輪の大赤字、モスクワ五輪の西側ボイコットと続き、テロルの恐怖と赤字のリスク、国際情勢の不安から、オリムピックを引き受けようという都市は激減するが、ロス・アンジェルス五輪が徹底した商業化で巨額の黒字を出すと、五輪は儲かるものと変って過剰な誘致合戦を招くようになり、昨今の醜聞へとつながる…。いわば、'72年のミュンヘン五輪が、図らずもひとつのきっかけになってしまったことは確かだ。
 それはともかく、当時のイスラエル政府はこの事件に激怒し、極秘裏に、国家による暗殺指令を下していた。
 俗に、女性宰相ほど戦争を起こす、などと言われ、「女だから弱腰」という批判を恐れるあまり過剰に戦闘的になるというのだが、その当否はともかく、当時の女性首相ゴルダ・メイアを中心とした閣議は、特殊部隊モサドにパレスチナ・ゲリラ11人の暗殺を命じたのだ。
 それがいかに実行されたかは、既に出版物やTV番組などで明らかにされてきたが、遂にはこうしてスピルバーグが仔細に映画化するまでに至った。
 たしかに、自国の栄え抜きのスポーツ選手をそっくり惨殺されたイスラエルの憤りは、よく解る。しかし、それに対する仕返しの暗殺を「神の怒り作戦」などと名付ける唯我独尊ぶりは、結局イスラム過激派と大差なく、どっちもどっちと思われ、そこに共感性は希薄である。
 ともあれ、イスラエルからもパレスチナからも歓迎されないであろうこういう映画を撮ったスピルバーグの意図は明確で、いつまでもキリの無い報復合戦の泥沼がいかに不毛なものか、暗殺グループのリーダー、アブナーの心理の変遷を通して、はっきりとメッセージされている。
 不謹慎ながら、ここで描かれた暗殺の手口の数々は、素人には実に興味深く、プロ集団らしからぬドジを踏むあたりも、かえって生々しい。
 エリック・バナは好演。俳優としてリスクのある役を、果敢に引き受けている。
 新ダブル・オウ・セヴン役で注目のダニエル・クレイグは冴えない男で、どうしてジェームズ・ボンドに抜擢されたのか不明。(なんでも、007ファンから反対運動が起きてるそうな!)
 『シャイン』でオスカー受賞のジェフリー・ラッシュは、流石の貫禄だ。

●ジャーヘッド ★★半
 (2005・米・2時間3分)

 監督:サム・メンデス
 出演:ジェイク・ギレンホール
    ピーター・サースガード
    ジェイミー・フォックス


 ついイラク戦争と混同しがちだが、これはその前の湾岸戦争を描いたもので、主舞台はサウジとクウェートであり、イラクは会話の上でしか出てこない。
 監督が『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデスだけに期待したが、どこか既視感があって、思ったほどユニークではなかった。
 「一歩兵の手記を原作に“地上にいた兵士”の視点から見た湾岸戦争を描く話題作」という振れ込みだが、新兵の過酷な訓練ぶりは『フルメタル・ジャケット』だし、TVのインタヴューを受けているところをカメラ目線でえんえんと繋ぐのも、ある種パターン化してしまった戦場ものという印象。
 ただ、あの戦争に狩り出された若者の心情はよく分かり、砂漠のど真ん中での酷暑生活は、映画でなければ伝わらない苛烈さだ。
 ジェイク・ギレンホールが、『ロケット・ボーイズ』や『ドニー・ダーコ』の少年役を卒業してすっかりたくましくなっているのに、ある種の感慨を覚える。時の流れは矢の如し…。

●白バラの祈り−−ゾフィー・ショル、最期の日々 ★★★
 (2005・独・1時間57分)

 監督:マルク・ローテムント
 出演:ユリア・イェンチ
    ファビアン・ヒンリヒス


 ヒトラー政権下のドイツ人がひとり残らずナチス支持だったわけは無く、当然、反政府運動もあった筈だが、軍内部における総統暗殺の企ては一応知られていても、民間人による反ナチスの運動がどんなものだったかについては、あまり一般的な知識とは言えなかった。この映画は、そういう空白を埋めてくれる先駆けと言える。
 舞台は1943年のミュンヘンで、ナチスの終焉が迫る中、非暴力的レジスタンス運動を展開する学生グループ「白バラ」に焦点を絞り、その中の紅一点であったゾフィー・ショルが、大学構内で反戦チラシを配布していたところを逮捕され、6日後に処刑されるまでを、窮めてオーソドックスに、淡々と描く。
 全くの実話だけに、史実に忠実に描こうという姿勢はよく解り、また、余計な感情表現を最小限に抑えているのも有り難いが、しかし、どこか情報番組の再現ドラマっぽくなってしまっても説得力を欠くのでは…、などと思っていたら、ラストの処刑シーンで度肝を抜かれた。
 ナチスの処刑というと、壁際に並べておいて端から銃殺するようなイメージが漠然とあったが、ここではまったく違っていて、かなりショッキングなのだ。あえて言えば、この時代のドイツにまだこんなことが残っていたのか、と驚嘆するほど。
 地元の第55回ベルリン国際映画祭では、銀熊賞、最優秀監督賞、最優秀女優賞を受賞している。「ナチのガス室は無かった」などという馬鹿な妄論が時折り出て来るから、ナチスの実像はこれからも永続的に描いていって欲しいもの。

ナルニナ国物語 第1章:ライオンと魔女 ★★★
 (2005・米・2時間20分)

 監督:アンドリュー・アダムソン
 出演:ジョージー・ヘンリー
    ウィリアム・モーズリー
    アナ・ポップルウェル
    スキャンダー・ケインズ


 俗説では、神話を持たないイギリス人が、そのコンプレックスを解消するために、「指輪物語」「ナルニア国物語」というふたつのファンタジィを20世紀なかばに生み出したのだそうな。
 どちらの作者もオックスフォードに学んだ友人同士だし、トールキン「指輪物語」の執筆開始が1936年、脱稿が1949年で、C・S・ルイス「ナルニア」のほうは1950年〜57年刊行と、このふたつのファンタジィの執筆期間はかなりダブってることもあるから、そういう意気込みもあったのかもしれないが、俗説の当否はともかく、両者の物語りとしての性格はかなり違っている。
 「指輪」が有史以前のファンタジィ世界で完結しているシリーズ・ワールド(直列世界)で、こっちの世界とは直接かかわらないのに較べ、「ナルニア」は、こっちの世界の少年少女たちが衣裳箪笥を通ってナルニア国と行ったり来たりするというパラレル・ワールド(並行世界)だ。
 また、「指輪」が基本的にひとりの少年の孤独な戦いであり、何の権力も見返りも求めないのに較べ、「ナルニア」は4人の兄弟姉妹がそこで活躍して王と女王になるという、文字通り児童文学の“王道”を行っている。
 両作のこれ以上の比較考察は専門家に任せるとして、ともかく、このような物語や神話によって得られるものは、計り知れない。
 例えば、どんな子供でも、一度は自分の王国を夢想するものであり、こういう神話に寓することによって、支配欲や権力欲を解消していく。
 また、「ナルニア」で言えば、敵役が男でなく魔女であるというのは、少年がマザー・コムプレックスに取り込まれることへの警告だし、ナルニアの王であるアスランというライオンが、犠牲となって一度死んでからまた復活するのは、イエス・キリストのアナロジーでもあるのだろう。
 いずれにしろ、幼少時代にこのような物語から【神話効果】を受けることは、人格形成に極めて重要と思われ、少年犯罪や暴力行為に走る輩は、そういう【神話効果】が足りなかったのも一因と言えるのではなかろうか。
 クライマックスの合戦場面の物量は凄く、膨大なCG作業にはVFX工房が実に3社共同であたっている(建設業で言うJV=ジョイント・ヴェンチャーだ!)。これを実写でやるとしたら、とんでもない製作費になるから、CGがここまで発達したきょうびにファンタジー映画ブームが起きるのも、時代の必然というものだろう。

●『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』★★★
 (2005・米・2時間16分)

 監督:ジェームズ・マンゴールド
 出演:ホアキン・フェニックス
    リース・ウィザースプーン


 ジョニー・キャッシュについてはまったく無知で、彼のヒット曲でメロディーが浮かぶのは1曲も無いけど、これを観ると、破茶滅茶な言動も含めてなかなか魅力的な歌手だったんだと思わせる。
 周囲の反対を押し切って、刑務所の中でコンサートを強行するあたりは、小気味良さを通り越して感動的ですらある。
 そして大詰めの、聴衆の前でプロポーズするところは、なかなかに盛り上がって、心に残るものがあった。
 リース・ウィザースプーンが、これでアカデミー主演女優賞を受賞。たしかに見応えある演技で、今まで観たうちでは彼女のベストだろう。
 また、ホアキンもリースも、吹き替え無しの自分の声で歌っているのが、努力賞もの。
 『T2』で液体金属ターミネーターだったロバート・パトリックが、しごく伝統的なアメリカの父親を演じていて、なかなかに幅のあるところを示し、見直させる。

●ホテル・ルワンダ ★★★
 (2004/南ア・英・伊/2時間02分)

 監督・脚本・製作:テリー・ジョージ
 出演:ドン・チードル
   ソフィ・オコネドー
   ニック・ノルティ


 ルワンダ、ブルンジでのツチ族とフツ族の対立による大量虐殺(1994)は、日本でもそれなりに報道されたが、その渦中にあって、ひとりのホテルマンが1200人もの命を救ったというこの感動的美談は、知る人ぞ知るものだった。
 それを、『父の祈りを』などの脚本で知られるテリー・ジョージが、自分でメガホンもとって映画化し、2004年度アカデミー賞の3部門(脚本賞、主演男優賞、助演女優賞)にノミネートされるなど、高評を得た。
 ただ、その事が逆に興行権の値上がりを招き、日本の配給会社は採算割れを恐れてどこも手を挙げず、上映の目途が立たなかったが、インターネットで署名運動が起きて、やっと2年遅れで日本でも劇場公開された由。
 昨年(2005年)の『マザー・テレサ』同様、こういう実録ものというのは、作品の出来うんぬんの前に事実の重みそのものが既にあるので、よっぽどひどい映画化でない限り、ある程度の感動はあらかじめ保証されているようなものだから、B級映画的な通俗感や誇張が多少は含まれていても、それなりに事実に忠実に描いてさえあれば、感涙を呼ぶことは必定。
 とにかく、ドン・チードルの抑えた演技が光り、オスカー主演男優賞ノミネートも納得で、また、国連平和維持軍の大佐にニック・ノルティを配して、PKOの無力感にも重みを出し、バランスをとっている。
 この作品世界に入りこめば、同じ地球上にあるあまりの不条理に身震いするが、それを椅子に座って安穏に観賞してることも、また不条理でなくて何だと痛感させられる。

●雨の町 ★★
 (2006/製作委員会/95分)

 監督・脚本:田中 誠
 出演:和田聰宏、真木よう子
    成海璃子


 菊地秀行の短編小説を映画化したホラーだが、ちょっとクラシカルな雰囲気の落ち着いた映像が良く、暗く鬱陶しいだけじゃない、味のある小品に仕上がっている。
 山奥の村で内臓の全く無い子供の死体が発見され、取材に訪れたルポライターが次々と奇怪な事実に遭遇して、35年も前に集団失踪した子供たちや、村の古くからの伝承などが浮かび上がり、やがて村人たちが守り続けてきた秘密が明らかになる…。
 ホラーと言えども、今般の家庭内暴力などを髣髴とさせ、改めて、作品は時代の中で作られていることに思い及ばされる。
 売り出し中の美少女タレント=成海璃子が、CGで不気味に変身して、可愛いだけじゃない、ちょっとコワいところも見せているのが微笑ましい。







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