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 【2006年4月】
 ●マンダレイ
 ●ブロークバック・マウンテン
 ●クラッシュ
 ●イーオン・フラックス
 ●大統領のカウントダウン

●マンダレイ ★★★半
 (2005・デンマーク/スウェーデン/蘭/仏/独/米・2時間19分)

 監督・脚本:ラース・フォン・トリアー
 出演:ブライス・ダラス・ハワード
    ダニー・グローヴァー
    ウィレム・デフォー 


 一昨年(2004)の本欄・洋画部門で圧倒的ベスト・ワンにした『ドッグヴィル』の続編とあって、観る前から期待感満々だったが、前作の衝撃は幾分薄れたとはいえ、これもまた充分に突き抜けた傑作だった。
 広大なスタディオの床に白線を引いて囲っただけの、実験劇場のような究極のセットは相変わらずで、この作品世界に惹き込まれたが最後、独特の緊張感に呪縛され、息を呑んで凝視める以外ない。
 今回、登場人物の配役が変更され、ニコール・キッドマンだったヒロインのグレースは、『ヴィレッジ』で盲目の少女を演じていたブライス・ダラス・ハワード(ロン・ハワードの娘!)になって、かなり若返ったし、その父親のギャングのボスは、ジェームス・カーンからウィレム・デフォーに代わり、一段とアクが強くなった。
 物語は1933年、ドッグヴィルをあとにしたグレースと父親一行の車列が“マンダレイ”という名の大農園にたどり着き、70年以上も前に廃止されたはずの奴隷制度がそこに残っているのに驚く。グレースは、黒人たちを今すぐ解放して民主主義を教えなければ、という使命感に駆られ、父親の制止を振り切って行動に出るのだが、この辺の女子学生的理想主義は、ニコルのような大人の女が演ったのでは愚かなだけに見えてしまいそうだから、配役の大幅な若返りは正解だろう。
 とにかく、ここでのアメリカ批判は辛辣で根源的なものであり、また、権力と大衆についての寓話として、重苦しくも見応えがある。
 なんでもこれは“アメリカ三部作”第2弾であり、次の第3弾はワシントンが舞台だそうだから、いよいよ仕上げが楽しみだが、グレースを演じる女優は未定だとのこと。
 ローレン・バコールが、今回は農園の女主人の役で出ており、依然として健在、相変わらずの貫禄なのが嬉しい(笑)。

●ブロークバック・マウンテン ★★★
 (2005・米・2時間14分)

 監督:アン・リー
 出演:出演:ヒース・レジャー
    ジェイク・ギレンホール
 


 アメリカでは、ゴールデングローブ主要4部門(作品賞を含む)受賞だが、保守的なアカデミー賞のほうはゲイ映画に作品賞は出さないだろうと思っていたら、案の定、受賞はしなかった。ただ、替わりに監督賞にアン・リーを選出し、バランスはとったということだろうか…。
 別に自分を保守的な人間とは思っていないのだけど、男同士の友情でなく「愛情」となると、ちょっと理解不能になるので、やっぱり観る前から危惧した通り、何とも居心地が悪く、ワイオミングの風景の美しさにはただただ見惚れたけれども、このふたりの「愛情」の部分にはまったく感情移入できなかったから、一滴の涙も湧いてこず。
 むしろ女性のほうが率直に泣けるとみえ、実際ラストでは、あちこちで女声のすすり泣きが聞こえた。そもそも女性のほうが、ゲイにしろレズにしろ、ホモ・セクシュアルに対して抵抗が少ないのではないか?
 アン・リーは、来日記者会見で「日本に関して、是非ゲイ・コミュニティに応援してほしいし、女性の人たちに是非見ていただきたい」とコメントしていた。つまり、ゲイと女性には期待するが、一般男性観客に支持されるのは、はなっから無理と判ってらっしゃるのだろう(笑)。
 ミシェル・ウィリアムズがヒースの妻役で好演。
 ジェイクの妻役は『プリティ・プリンセス』のアン・ハサウェイだが、自分から男を誘う奔放な女で、ヌードも厭わず、大ラスではかなりイヤ〜な性格も見せるのには驚く。優等生的アイドル女優のイメージなんぞ何でもないって風で、ちょっと日本では考えられない変身ぶりだ。
 総じて、アン・リーの西部劇としては、南北戦争の裏面を扱った『楽園をください』のほうが、世評は高くないけれどもずっと心に残った。

●クラッシュ ★★★半
 (2005・米・1時間52分)

 監督・脚本:ポール・ハギス
 出演:マット・ディロン
    ドン・チードル


 で、大方の下馬評=『ブロークバック・マウンテン』有利=を覆してオスカーの作品賞を獲得した『クラッシュ』だが、評者としては群像劇として充分見応えがあって面白かったし、大詰めでは思わず泣けた。たしかにこれで作品賞を獲るにはちょっと位負け気味だけど、ノミネート5作のうち、観てない『カポーティ』を除く4作(あとは『ミュンヘン』と『グッドナイト&グッドラック』)の中で選ぶなら、やっぱりこれを1位にするかもしれない。
 『ミリ・ダラ・ベイビー』の脚本ではちょっと疑問のあったポール・ハギスだが、偶然が重なり過ぎるところは多少あるにしろ、こっちのほうがずっと抵抗なく観られた。
 これは決して、「交通事故には気をつけましょう」というだけの映画ではないです(笑)。

●イーオン・フラックス ★★
 (2005・米・1時間33分)

 監督:カリン・クサマ
 出演:シャーリズ・セロン
    ジョニー・リー・ミラー
    ピート・ポスルスウェイト


 『ガール・ファイト』で認められた若手女流監督で日系のカリン・クサマが、メジャーのSFアクションに抜擢され、まずまずの腕を見せている。
 ただ、アニメの映画化にしてはちょっと複合したストーリィで、かなり文明批評的なテイストが混ざり、不妊とクローン出産という女流監督らしい問題意識も発揮されるので、単純な爽快感は不足気味。
 シャーリズ・セロンが、バレエの経験を生かした身のこなしで華麗なアクションを披露してくれるのはいいが、ハル・ベリーの『キャット・ウーマン』の二の舞で、せっかくオスカー主演女優賞を獲ったのに、すぐあとでラジー賞を貰わないかと心配したが、幸いそれは他へ行ってくれた(笑)。
 評価としては★半がいいとこだけど、シャーリズの激しいアクションに慰労を込め、半個おまけの★★です(笑)。

●大統領のカウントダウン ★★
 (2005・露・1時間51分)

 監督:エブゲニー・ラブレンティエフ
 出演:アレクセイ・マカロフ
    ルイーズ・ロンバート
    ジョン・エイモス


 ロシア映画もハリウッド化されてきて、ロシア版『ダイハード』か『沈黙』シリーズか、とでも言うべきアクション活劇がやって来た。
 ただ、主人公は軍人で、ほとんど不細工に近い渋さ。気の利いた台詞やジョークを言うでもなく、ひたすら寡黙に、満身創痍になりながらテロリストと戦うばかりで、お色気シーンも無く、かっこ良さとはほど遠いが、その辺が逆にロシアン・テイストとして、ハリウッドとは違う存在意義と言えば言えるだろう。
 明らかにチェチェン・ゲリラのモスクワ劇場占拠事件を下敷きにして、ここではサーカスの大テントが占領されるが、あの事件では使った催眠ガスが強すぎて人質の多くが犠牲になってしまったのに較べ、こっちの作戦では死者が極力出ないことは言うまでも無い(笑)。
 お話しは、そのチェチェン・ゲリラとイスラム過激派が手を組んで核兵器を乗っ取り、ローマ・サミットを標的にする、という結構スケールのあるもので、ロシア軍の全面協力によって戦車や装甲車、戦闘機などもふんだんに使い、大型ジェット機の大クラッシュまで盛り込んでいる。
 これを、世界ハリウッド化の徴候と採るのはたやすいが、しかし、ハリウッド映画の多くが良かれ悪しかれ政権批判をベースにしているのに較べ、ここでのテロルとの主戦論は、所詮プーチン政権擁護の強硬論につながるから、手放しで娯楽とはいかない。








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